私が船を買うまで。第二十三話

プレジャーボート

私が船を買うまで。 第二十三話 部屋とYシャツと私と便所

船に トイレがいるかどうかという私の長年の疑問を アメリカでは普通にこんな形で解決していたとは夢にも思わなかった。 ちくしよう!アメリカってやっぱり進んでるなぁ。さすがに世界一の先進国である。日本もアメリカを見習って 洋上にトイレを設置してもらえないものか。うんこ20(トゥエンティ)を開くとしたら議長国はアメリカだな。

アメリカではブラックバスのトーナメントが盛んだ。トッププロの人気はすさまじいものがある。プライベートジェットでツアー入りする人もいるし研究用の湖を所有しているプロもいる。全てが桁違いだ。現在、BASSという団体とFWLという二つの団体があり、日本で有名なのはBASSの方だろう。日本からも大森貴弘はじめ複数のトッププロが参戦している。実際のプロのトーナメンターたちはどのようにうんこをしているのか。その答えがここにあった。と思ったらぜんぜん違っていた。

弟は笑った。

「にいちゃん、バストーナメントでトイレなんかいかんよ。」
「え?湖にトイレまでついているのに?」
「うん。だって、そんなひまないよ。どうしてもやりたくなったらボートの上からするんよ。」
「ええ?なんで?」
「だって、時間がもったいないし、相手の時間を無駄にさせられないじゃない。きれいな若い女の人でも船の上からするんよ。みんななれているから平気でやるよ。」
「ええっ!!」
「男女平等っていうけど、アメリカではこういうところこそ徹底的に男女平等だよ。」

一般的にブラックバスのトーナメントでは、ボーター(ボートを持っている人)とノンボーターを抽選で組み合わせてペアを作る。友達の船に同乗して二人で参戦することはできない。お互いがお互いの不正を監視しジャッジしあって大会を運営しているのである。

ローカルの試合とはいえ、ノンボーターの優勝賞品はバスボート一艇。超豪華。ローカルの試合に出ているボーターは、いずれエリートクラスを目指しているいわゆるトッププロの卵のようなものだ。彼らの眼はいつも真剣できびしい。中には、スタートする前にボーターの方からこういう場合はこう。こういうことはしないように。などと細かい指示が出るという。

「アメリカじゃバスフィッシングは遊びじゃないんよ。」

弟はにこやかに笑ながら帽子をぬいだ。弟もテイルウォークUSAの公認バスプロの一人である。なるほどねえ。僕はたのしいばっかりで釣りをしているけど、たしかに賞金がかかるとちがうよなあ。

どうしても良い写真がなかったので画像は借り物です。すみません。

上の写真をみてほしい。ボートの前側(写真左)に立っている人がボーター。後ろの人(写真右)がノンボーターである。ボートの前側(バウサイド)にはエレキモーターがついており、ボーターがエレキモーターを操作してポイントを探っていく。バウサイドの方がボートが通過する前を釣ることができるのでヒット率が高い。その上、ポイント自体を自分で決めることができる。

一方、ノンボーターはスターンサイド(後ろ側)に立ってボートの後ろから釣ることになる。一般的にスターンサイドのノンボーターは船の前半分にはキャストできないという不文律がある。人によっては良いポイントにつくと船をポイントに直立させポイントにキャストできないように船を操船する。そんなことは当たり前らしい。バウサイドのボーターがバスをキャッチする。当然、バスを船に釣りあげ、はずしてキーパーサイズかどうかを調べライブウェルにはいっているバスと交換したりいろいろな作業をするのだが、そういう一連の作業の時にはバウががら空きになる。ところが、そういうスキを見てバウサイドにキャストすることが一番のトラブルの原因になるのだという。

また時には朝一番でスタート地点からボーターの調べたポイントまで30分以上時速100Kmでぶっとばすこともあるという。そんな状態でもし「うんこがしたいからトイレまでもどって。」と言ったらぶん殴られるよな。

私は初夏の日差しを浴びきらめく湖面を見つめながら深く考えた。旅うんこ。それはたしかに面白いし、今ままで何よりも旅の思い出を深く強くしてくれたことはまちがいない。しかし、この考えはひょっとしたらアマチュアの考え方だったのではないか。私は、私をあまやかしていたのではないのか。うつむいて口を閉ざした私とにこやかに笑いながら操船する弟を乗せた船はゆっくりと元の岬へと進んでゆく。

つづく