私が船を買うまで。第二十一話

プレジャーボート

私が船を買うまで。第二十一話

ノーシンカーとはいえ、引ったくるようにガボッとでたところを見るとバスの活性は高い

「にいちゃん!ドラグ!」

そうだ。ドラグの調整をしてなかった!あわててドラグを緩める。そのとたん激しいテイルウォーク。でかい!ブラックバスだ。テイルウォークを二度三度。

「あ!」
「ばれた?」
「ばれちゃった!」

残念。緊張と興奮で腕がしびれるような感覚だ。声もなく糸ふけをとる。

「浅いところででたよ。この気温でも活性は高いね。」
「今日はいいみたいやね!」

弟も嬉しそうだ。実はつい何日か前ガイドの仕事で3名ほど乗せたのだが、こうやってとか、ああやってとかいろいろ言ったにもかかわらずまさかのノーバイト。最後の最後に1匹釣れたらしいがそのときのいやな思い出が消えなかったようだ。弟には普通にかかるらしいがゲストにはかからない。かなりつらい思いをしたという。せっかくなので弟たちのシークレットルアーで攻めることにする。○○を○○して…

「にいちゃん。今日の目標ね。45㎝以上のバスを釣ること。スモールマウスバスを釣ること。この二つね。」
「簡単にいうねえー。」

急に威張りだすのがまた頭にくる。三投目にまたヒット。

「しゅう!またきた!」
「うそーん。」

今度はあまり大きくなさそうだ。ドラグは調整してあるので慎重に引き寄せる。おや?ブラックバスじゃないぞ。

「あ!スモールだよ!しゅう!スモールだ!」
「やったやん!」

30㎝に少し足りないちいさなサイズだが人生初のスモールマウスバスだ。写真を撮ってリリース。釣れる。俺のテクニックがアメリカでも通用するぞ!

弟もその間数匹キャッチする。どれもかなりでかい。

「にいちゃん。せっかくやけトーナメント見たいにキープしよう。」
「いいねえ!」

午前中だけで二人で20本以上のバスをキャッチ。弟の62㎝8ポンドは驚くほど大きかった。実は私も60㎝をキャッチ!これで今日の宿題は完了したことになる。

「いやあ、すごくいいよ。無茶苦茶、活性がたかいね。」
「まだまだなんやけどね。これからベイトが沸いてきたらバスがボイルしはじめるんよ。そうしたらまた楽しいんよね。」
「なるほど!」

そんなとき弟がぽつりとつぶやいた。

「父さんが生きてたらよろこんでたろうなあ。ボートに乗せてやりたかったなあ。」

私はすぐに返事ができなかった。我々兄弟の釣り好きは父譲りなのは間違いない。私たちは幼いころから父の実家の裏の川をお風呂のようにして育ってきた。目が覚めたら釣り。昼も釣り。投網も、友釣りも泥棒釣りも素潜りもぜんぶ父から教わった。父は年が離れて生まれた一番下の弟をことのほかかわいがった。私にとっては偏屈できびしい父親に過ぎなかったが弟にとってはまさに太陽であっただろう。

15年前。事情があり弟は父の死に目に会えなかった。

アメリカで暮らすということは、まあ、そういうことだ。近くに住んでいても死に目に会えるとは限らない。しかし、弟が感じた絶望ともいえるだろう悲しみを私は想像することすらできなかった。父が亡くなったと知って人目もはばからず泣く弟の声が今も耳から離れない。嗚咽などというものではない。まるで喉が裂けるかのように子供のように弟は電話の向こうで泣き続けた。

今、キャステイクでは鳥がさえずっている。岩肌にはイワツバメだろうか。何百羽もの鳥が岩陰に巣を作るのにいそがしい。気温があがり15度ほどになっている。なんという名前かわからない、紫や白い花が風に揺れている。

「そうやね。よろこんだろうねえ。」

弟と和やかに話していると携帯がなった。

つづく